「はあ、何言ってんのよ」由梨華は、腕を組み呆れたように私を見た。

「……」


「何も言えないじゃない……」

 由梨華の声は苛立っているのが分かる。


「海里さんは、海を愛してる……」

 私は、絞りだすように震える声を出した。


「はあ?」


「海里さんは、海の素晴らしさも、海の怖さもみんな知ってる。朝食は大きなウインナーが好き。朝のコーヒーは夏でもホットが好き。仲間と海の話をする時が一番幸せなのよ!


「ふんっ。何言ってるのよ、バカバカしい。そんなの、みんなに合わせているだけよ。海里さんは、あんた達なんかが口をきける相手じゃないのよ! 立場をわきまえてよね!」


「海里さんは、海里さんよ。偉そうに立場を決める人じゃない!」

 私は、自分でも驚くほどに声を張り上げていた。


「何よ、分かったように…… 海里さんは私と婚約したのよ!」

 由梨華は、吐き捨てるように言うと走り去って行った。


 自分の言った言葉が、あまりにも情けない。


 私は、へなへなと椅子に座りこんだ。

 その途端、目から何か毀れ落ちたかと思うと、次から次へと溢れ出てきた。

 海里さん、婚約したんだ……


 私は何も知らなかった。

 私の知っている海里さんて、なんだったのだろう……


 胸が苦しくて、苦しくて、その先の答えが怖くて目を閉じた。
 でも、気持ちは正直で私を許してくれなかった。


 目を閉じた途端に、浮かんだ海里さんの顔……

 何で、今、こんな時に分かってしまったんだろう?


 私は、海里さんが好きだったんだ……


 益々涙があふれ出てきて、息をするのも苦しくなった。




「だから言ったじゃないですか? 海里さんは住む世界が違う人だって……」


 私は声のする方へ顔を向けた。

 そこには、笑みをこぼした高橋君が立っていた。