暖かいコンソメスープをカップに注ぎ、レタスとトマトのホットサンドと半分に切り、ウインナ―と一緒にお皿に盛りつける。

 五人分をプレートに並べ、テーブルへと運ぶ。


「おー。旨そう」

 真っ先に声を上げるのは、いつもの事ながら、ユウちゃんこと浜島勇太だ。


「お待たせしました。本日は、野菜のホットサンドとコンソメスープです」

 少し気取って、テーブルの上に置いた。


「げっ。なんでトマトが入ってるんだよ」

 新聞をずらして顔を覗かせた海里さんの顔は眉間に皺がよっている。


「本日のメニューですから。今日は月曜日、しっかり野菜をとって今週も頑張って下さい」

 腰に手を当て、海里さんに向かってニヤリと流し目をした。


「月曜から、わざわざ嫌いな物出さなくてもいいだろう?」

 少しムッとしながら、ホットサンドにかぶりついた海里さんの目は、すぐに緩んだ。

 朝一で収穫した、フレッシュトマトは身がしっかりしているが酸味が効いていて、火を通すと甘味が出てトマトの臭みがなくなる。


「いかがですか?」

 私は勝ち誇った声で、わざとらしく聞いた。


「まあ、食えるよ」


 海里さんは、そう言うとペロリと全部たいらげ、大好きなウインナーを口の中に放り込んだ。

 その姿を見届け、キッチンに戻る。

 
 きらいなトマトは入れたけど、大好きなウインナーを付けたんだから、文句は無いはずだ。

 その証拠に、カウンタ―から海里さんを見ると、満足そうにコンソメスープを飲み干した。


 そして、海里さんは椅子から立ち上がり、テラスへ出ると海が一番綺麗に見える席に腰を下ろした。

 毎朝と言っていいほど、この時間のこの場所は海里さんの指定席だ。


 私は、コーヒーをカップに注ぎ、店内のテーブルに座っている四人分をテーブルに置くと、一人分を持ちテラスへと向かう。


 海里さんば、ただ、海を見ている。

 朝日もしっかりと昇り、キラキラと海を輝かせる。

 まだ、朝の風はほんの少し涼しくて気持ちがいい。


 テーブルの上に何も言わずコーヒーを置く。

 海里さんも何も言わず、すぐに熱いコーヒーを口に運ぶ。

 それは、けして偉そうなものでなく、すぐに手に取ってくれる事が、ありがとうと言う意味だと私は思っている。

 そして、私も、手すりの片隅から海を眺めた。

 テラスには、丸いテーブルが五つほど並び、それほど広いわけではないが、海を見渡せる開放的な空間になっている。

 海里さんが来る日は、いつもこうしてテラスでほんのわずかな時間を過ごす。

 時には冗談を言って笑ったり、懐かしいママの話をする時もある。

 そして、何も言わずお互い海を見ている時もある。

 でも決して、お互い機嫌が悪い訳ではなく、気持ちのいい時を過ごしている。


 私は、どんな会話をしても、どんな過ごし方をしても、この時間が好きだった。

 何故かなんて、考えた事もなく、ただ、好きだった。


「おう、海里いるか?」


 あいさつもなく、突然声を出しながら裏口から入ってきた、青いTシャツにハーフパンツ姿の年中日焼け顔のおじさんはパパだ。