「分かっています。俺も、それなりに責任ある立場で仕事しているので。それに、それほど甘い考えで動くほど度胸は無いんで。」

「うぅん……」

　パパは、納得しきれていないよで声を唸らせた。


「逆に言えば、大内コーポレーションにとって、ホテルは唯一の売り上げのある部門なんです。この先、このホテルがどういう動きを見せるのかが全てを左右しますね」

　海里さんは、何か意味のある言い方をした。


「俺には、難しい事はよく分からんが……　海里は、やっぱり凄い世界の男なんだな」

　吉原さんは感心したように言ったが、どことなく淋しそうにも聞こえた。


「吉原さん、変な事言わないで下さいよ。俺は俺です。それに、俺にとってもこの店は大事な場所なんで……」


　私は、キッチンへ向かう事が出来ず、階段の下で立ったまま必死で皆の会話を理解しようとした。

　海里さんの、言っている事が、なんだか凄く遠い世界の話に聞こえる。
　海里さんは、何でそんなに、ホテルの内情まで知っているのだろうか？

　私は、この時、海里さんの口にした山内という名に、何も気付いていなかった。