「どうするんだよ。そうは言っても、リゾートホテルがなきゃ、厳しいんじゃないのか?」

吉原さんの、さっきの陽気の声とは違う不安そうな低い声だった。


「まあな。心配するな、俺と奏海なら、なんとかやっていけるよ」


「そりゃ、そうだが……」


「だから、海里。前にも言ったが、今年の夏で最後だと思っていてくれ」

パパの、すまなそうな声が、頭の中を通り過ぎた。
 最後って、どういうこと?


「けっこう客が入っていそうに見えるのになぁ。まさか、そんなに借金抱えたホテルだったとは……」

 吉原さんが、深くため息をついた。
 その深いため息に、パパも海里さんも同調するのかと思ったのに、同じようにため息をはいたのは、パパだけだった。
 
 まるで、二人のため息をかき消すかのように、海里さんが口を開いた。


「いえ、このホテルが経営不振であった訳じゃないんです。親会社である、大内財閥という大手企業が経営を悪化させていたんでず」

 海里さんの淡々とした冷静な声が、仕事の話でもしているかのように感じた、


「それじゃあ、共倒れってわけか……」

「ええ。赤字の穴を埋めるために、ホテルもかなり厳しい状況で、人件費も足りなくてサービスに不満のある客が多く出ていたようです。ホテル自体は立地条件もいいし、プールや設備もかなり充実してます。ただ、社員の教育まで行き届いて無かったみたいです」


「えらく詳しく調べたな……」

 吉原さんが、感心したように言った。


「色々と……」

「海里。お前、何を考えている?」

 パパの少し重い声だ。


「いいえ、何も……」

 海里さんの声は、至って落ち着いた声で返してきたのだが……


「海里、前にも言ったが無理はするな!」

 パパが珍しく厳しい声を上げた。