海里さんが気付かないようにと心の中で祈のった。
 しかし、私の祈りは通じず海里さんが顔を上げてしまった。

 海里さんが、何か言うのではないかとハラハラしながら私は、キッチンから二人の様子を見る事しか出来ない。

 だが、予想外にも、海里さんが高橋君をキッと睨んだのだ。
 その目は、私が見たこともない鋭いもので、ぎくりとなってしまった。

 この二人に何かあったのだろうか? 
 仲良さそうに見えたのに……


 高橋君は、一瞬たじろいたように見えたが、海里さんに何も言う事もなく店のドアを開けて出ていった。

 私は、高橋君が帰った事に、なんだかほっとしていいた。

 パパと吉原さんは、話に夢中で二人の事には気付かなかったようだ。

「おい、海里。お前も、一緒に飲まんか?」

 パパが海里さんに向かって声をかけた。


「明日の準備が終わったら、ご一緒しますよ」

「おお」

 吉原さんも、嬉しそうな声を上げた。


 私は、生ハムのとチーズのサラダを盛り付け、まだ、三人共を夕食を済ませてないと思い、蕎麦をゆでた。


 軽いつまみが数品カウンターに並ぶと、海里さんもカウンターに座った。

 私も、少し離れたテーブルで、蕎麦で夕食を済ませた。


 男三人は、ビールを飲みながら海の話で盛り上がっている。

 私は、昼間の疲れもあり、早くシャワーを浴びたい。
 それに、この人達の話には付き合いきれない。

「先に上がるね」

 私は、腰に巻いたエプロンを外しながら言った。


「おお、ありがとうなぁ。旨いよ」

 吉原さんが、しっかり赤くなった顔をくしゃりとさせて言った。

「いいえ。お口に合って良かった」


「しっかり休めよ」

 パパは、そう言うと追加のビールを取りに立ちあがた。

「うん。お休み」

「お休み」

 海里さんが、軽く手を上げてチラリと私を見た。

 さっきの高橋君との事が気になるが、とても聞く勇気はない。



 私は、シャワーを浴び終えると、ドサッとソファーに座った。

 タオルで髪を拭きながら、頭の中で、明日のモーニングの段取りを考えていた。

 そういえば、アスパラが残っていた様な…… 
 さっき、貰ったトマトとサラダに出来ないだろうか? 

 私は、立ち上がり、冷蔵庫を確認しようと、階段を降りた。


 きっと、まだ海の話で盛り上がっているのだと思っていた。

 だが、私の耳に入ってきた言葉は……