「ただいま!」

海里さんが、帰ってきたのだ。


慌てて高橋くんが私から離れた。
私はほっとして、思わずため息が漏れてしまった。


「おかえりなさい」

私は何事もなかったように答えたが、高橋君は何も言わずモップで床を拭き始めた。

私は、高橋君から逃げるようにキッチンへと入った。


 海里さんも、黙ってチェックリストの確認をしている。

なんだか、へんな空気が流れてて息苦しい。

何か、話しでもしたほうがいいのか? と、思った時、入り口のドアが開いた。


「ただいま」

「こんばんは」

 パパの声と同時に声を上げて入ってきたのは、地元で農園を営むパパのダイバー仲間の吉原さんだ。
 吉原さんは陽気で優しくて、奏海にとっても信頼できる人だ。

「いらっしゃい吉原さん」

 私は、重い空気が変わった事に、ほっとして明るい声が上がってしまった。

「かなちゃん、これ、新種のトマト。良かったたら試してみて」

「美味しそう、ありがとう」

 私は、袋からトマトを出し手のひらに乗せた。
 真っ赤に熟したトマトは、小玉のわりに重みもある。


「水分が多くてみずみずしいとは思うんだが……」

「うん、どんな料理に合うかな?」

 私は、思わずパクリとトマトにかぶりついた。

「甘い!」

「だろ?」

 吉沢さんは、嬉しそうにほほ笑んだ。


「奏海、トマト食うのはいいが、何かつまみ作ってくれんか?」

 パパが缶ビールを手にして、吉原さんとカウンターに座った。


「うん」


 私は、冷蔵庫から生ハムを取り出した。


「それじゃあ、俺はこれで……」

 いつの間にか、帰り支度を済ませた高橋君が入り口の前に立っていた。


「あ、お疲れ様」

 みんな、それぞれに声を上げた。


 でも、高橋君は睨むように、リストをチェックしている海里さんを見ていた