社長がパパ? 
お金持ちのお嬢様であるのはなんとなく感じていた。 
 だけど、その社長に会うって、どういう事なんだろ?

 海里さんがラウンジに行かなかったのは嬉しい…… 

 でも、何かまた別のモヤモヤが胸に広がり始めた。


「おい、奏海、モーニング急いでくれよ。お客迎えに行く時間になっちまう」

 海里さんの声に、自分がまだモーニングの支度に取り掛かっていない事に気付いた。


「あ…… うん」

 私は急いで、エプロンを腰に巻いた。


「スープ温めるわね。どうしたのよ?」


 美夜さんが、キッチンに入ってきた。


「あ、ありがとう…… どうしたって?」

 私は、慌ただしくお皿を並べながら聞き返した。


「ふーん。ライバル現れたってとこかな?」


「な、何の事ですか?」

 私は、一瞬熱くなった顔を隠すように、美夜さんに背を向け冷蔵庫を開けた。

「さっきの、私可愛いですって顔していた子よ」

 美夜さんも、忙しく動かす手を休めず口だけを動かす。


「さあ、私には関係ない事ですよ」

 私は、フライパンを火にかけ油をしいた。
 
 ライバルって、どういう事だろう?
 なんで、私の顏は熱くなるんだろう?


「そう?」

 美夜さんは、暖まったスープをカップに注いだ。


「そうですよ。ただ、海里さんどんな仕事してるのかなって思っただけ」

 もしかして、美夜さんなら知っているかもしれないと思った。
 さっきの、由梨華の父である社長に会う事も何かわかるかもしれない。


「そうね…… 皆それぞれ抱えている物があるからね。海里が必要だと思ったら、自分で話すんじゃない。その時まで、待った方がいいと思うわ。根ほり葉ほり聞く事じゃないわよ」


「そうか……」


「海里にも、きっと何か理由があるのよ」


「そうですね」

 私は、モーニングを乗せたトレーを持った。
 これ以上聞く事は出来ないと思った。