なんとか、一つづつ乗り切りながら前に進んでいる。

 気が付けば、夜の八時を回っていた。
 リゾートホテルでは、まだ、社員が再建に向けて仕事している。

 疲れが出た始めた体を起し、ふと、奏海の店へと目を向けた。

 テラスに立つ奏海の姿が目に入ってきた。こっちを見ているような気がするが、俺がここにいる事を奏海が知るはずはない。

 奏海の姿を見れば、無償に会いたくなる。周りを見ると、みんなも疲れがで始めているのが分かる。


「もう、そろそろ、終わりにしょう。たまには、早く帰ってしかり休もう」

 俺の言葉に、皆、我に返ったように顔をあげ帰り支度を始めた。


 俺も、ホテルを出て奏海の店に向かう。


 店の前に、おやじさんの車が無い事を確認すると、急いで店の中に入った。

 テラスに出た途端、俺は、飛びつくように奏海の後ろ姿を抱きしめた。
 一瞬、びっくりしたように体をこわばらせたが、次の瞬間、すぐに俺の中にすっぽりと埋まった。


 俺は、ほっと息をつく。

 やっと、触れた。奏海の体は、風にあたりしっかり冷えてしまっている。


「しっかり、冷えちまってる」

 俺は、奏海の頬に手をあて、俺の方を向かせると、そのまま唇を重ねた。

 冷えた唇は直ぐに熱を浴びてきた。


「ちょっと、外だよ……」

 僅かに、唇を離した瞬間に、奏海が口を開いたが、俺には関係ない。逆に、開いた口に押し込むように、さっきより深く唇を重ねた。

 始め抵抗していた、奏海も、俺に答えだしふっと力が抜けた。
 俺は、腕にぎゅっと力を入れ奏海を抱きしめた。

 そして、また、後ろから抱きしめながら、二人で海を見つめた。

 俺は、まだ名残惜しくて、奏海の髪に唇を押し当てる。


 こうして、ただ二人で海を見ている時間が、一番幸せだ。


 今夜、おやじさん帰って来なきゃいいのに……


 そんな思いと格闘し、頬に少し冷たい風を受けながら、腕の中の奏海を愛おしく思う。

 この時間がずっと続けばいい……