「俺、忙しいんだ。今は、捕まりたくない」

「おい、なんだよ、それ。いいから聞いてくれ」

 仕方なく、もう一度椅子に座る。

「俺さ、結婚しようと思うんだ」

 思いがけない言葉に、一瞬戸惑ったが、俺には関係の無い事にほっと息をつく。


「おめでとう!」

 心からそう言ったのに……


「ああ。で、欲しい物があるんだ」

「なんだ? もう、お祝いの話か?」

 俺は、呆れて兄貴を見た。


「まあ、そんなもんだ。」

「で、何が欲しいんだ?」


「ホテルが欲しいんだ」


「はぁ?」

 俺は、聞間違いだと思う事にした。


「ホテルだよ!」

 だが、兄はホテルが欲しいと又言った。


「なんでだ?」


「そりゃ、勿論、彼女の為にさ」

 兄貴は、平然と言った。


「あのさ…… 前に、兄貴、ホテルを買うと振られるぞって、言ったよな?」

 俺は、兄貴を睨みながら言った。


「ああ。だが、お前や父さんとは事情が違う」

「なんだよ。同じだろうが!」


「俺は、ホテルごと手に入れるんだ……」

 兄貴の表情は真剣だ。
 嫌な予感しかしない。


「まさかと思うが、兄貴、彼女から結婚のオッケー貰ってないんじゃないだろうな?」


「ああ、なかなか、うんて言わないんだ……」

 兄貴は、深くため息をついた。


 全く、話にならない。

 俺は、頭を抱え立ち上がろうとしたが……


「沖縄のホテルなんだ。今、お前が再建しているホテルとよく似ているんだ……」

 その言葉に、立とうとした腰がまた座ってしまった。
 何故か気になる……

 俺は、仕方なく、兄貴の話に耳を傾ける事にした。


「ホテルは、お前の分野だろ?」

 そりゃそうだが、これから、もっと力を入れて行きたい。そんな、俺に、悪い話では無かった。


 そして、話の流れで、兄貴が船の分野に手を出し始めている事も知った。その船を試しに、あのリゾートホテルで使う事を申し出てくれた。

 俺には、願ってもない話だった。

 理由はともかく、沖縄のホテルの買収をする事になりそうだ……