夏が残したテラス……

「ぶ、部長…… 部長のお連れの方ですか? 失礼しました。どうりで……」

 男の一人が、今にも逃げ出しそうに頭を下げた。


「どううりで、なんだ?」

 海里さんが、睨むように男達を見た。

「綺麗な人だなと……」

「そうか? それはありがとう」

 海里さんは、いやらしくニコッと笑みをみせ私の腰に手をかけた。

 その瞬間、まわりからの冷ややかな視線を感じた。綺麗な女性達が、こっちを見ている。タラ―っと冷汗が落ちた。


「海里、そんなに心配なら、ちゃんとエスコートしろよ」

 その声に振り向くと、海里さんのお兄さんが、面白そうに笑いながら立っていた。私は、慌てて深く頭を下げた。


「なんだよ、兄貴。兄貴の部下だろ?」

「まあ、仕方ないよ。こんな綺麗な子が一人でいれば、声も掛けたくなるさ。あなたが、奏海さんですね?」

 お兄さんは、見た目通りの穏やかな声を掛けてくれた。でも、私の名前を知っている事に、驚きすぐに返事が出来なかった。

「あっ、はい。白崎奏海です。はじめまして」

 私は、慌てて答えると、もう一度深く頭を下げた。


「そんなに、驚かないで。紹介するね。僕のフィアンセの真鍋瑠璃。これから、色々と世話になると思う。よろしく」

 そう言って、お兄さんが後ろいた女性を、私の前へと促した。


 うわっ―。 綺麗な人。ワイン色のロングドレスに、黒い長い髪が大人の女性の魅力を溢れさせている。
 世話になるってなんの事? 私はお手伝いさんにでもなるのだろうか? 

「はじめまして、瑠璃です。よろしくお願いします。私も緊張しているのよ」

 そう言って、ニコリとほほ笑んだ瑠璃さんは、綺麗なのに、冷たさは無くて、人懐っこい笑顔で素敵な人だった。

「奏海です」

 私も自然に笑顔で挨拶する事が出来た。


 海里さんも、私の腰に手を当てたまま四人での少しの間、話を交わした。その間の周りの視線は、さっきよりも多く感じる。

 でも、海里さんが隣に居る事で、私の緊張はほぐれていき、堂々とまではいかなくても、自分の足で立てている気がした。