美夜さんが、大きくため息をついたのが分かった。

すると、階段を上ってくる足音がしたかと思うと、

「姉ちゃんこれで、全部か?」

ユウちゃんが、荷物をドサっと置いた。


「オッケ―よ」

「じゃあ、後は頼んだ。俺は先に行ってる」

 ユウちゃんは、そう言って、私に手を振って行ってしまった。


「さあ、着替えて」

「着替えるって?」

「このワンピースよ」

「スーツの方か……」

「ごちゃごちゃ言わない。今日が勝負なんだから!」


「そうだけど……」

 と、言い終わらないうちに、美夜さんにワンピースを押し付けられた。

 言われるまま着替え、鏡の前に立つ。


「凄い! 似合ってるわ」

 美夜さんは満足そうに、眺めると、大きく肯いた。

 鏡に映る自分に、似合ってない訳じゃないと思うが恥ずかしい。

「はい、座って」

 美夜さんに、椅子に座らされた。
 美夜さんは慣れた手つきで、私の髪の毛をさっと上げた。なにやら、ピンで止めたり、ホットアイロンでクルクルしたり、何されているのか分からないが、美夜の真剣な目に、何も聞けずにいた。


 美夜さんは、私の顔をじっと見ると、大きな化粧箱を取だし、私の顔になにやら塗り始め、目や頬をメークし始めた。

 そして、爪にはネイルを……

「よし! 完璧」

 美夜さんは、私を鏡の前に立たせた。


「!」


 言葉を失ったというのはこういう事だろう。
 鏡には、キラキラ光る青いワンピースに、髪をアップにした、別人に近い私が居た。だけど、腕のブレスレットにが、やけにワンピースと合っている事に少しほっとした。

 美夜は、ユウちゃんの置いて行った袋から、ハイヒールと鞄、それに、ベージュの春のコートを出した。


「さあ、時間がない、行くわよ」


「は、はい……」

 私は、コートを羽織り、鞄とハイヒールを手に階段を降りた。


 店には、スーツをバシッと着こなしたパパが待っていた。初めてみるパパのスーツ姿はカッコ良かった。

 パパは、何も言わず優しくほほ笑んでくれた。