それから、数か月……
 海里さんとは、ゆっくり会う間も無く過ぎていた。

 冷たい風も緩んだが、春の強い風が吹く。でも、天気のいい穏やかな日には、海岸に砂浜で過ごす人の姿も見え始めた。

 今年の夏はどうなるのだろう?

 でも、ホテルはお化け屋敷になる事は無く、どちらかと言うと以前より綺麗に凛々しく建っている気さえする。

 そんな事を思いながら、テラスでホテルを眺めていた。

「リゾートホテル、別の会社が買い取ったらしい」

 パパが、テラスに出てきて言った。パパが、ホテルの事を口にするのは、これが初めてだった。これはチャンスだと思い私も口を開いた。

「そうなんだ…… でも、うちと前みたいに契約してくれるかは分からないよね?」

「そうだな。これから交渉の話になる」

「大丈夫かな?」

「ふっ。奏海が交渉すればいい」

 思いも寄らない言葉に、私は、パパの方へ振り向いた。


「何言っているのよ! そんな難しい事出来る訳ないじゃない」


「お前だって経営者だ。これからは、そのくらいの事やってもらわんとな。俺は、海のそばでのんびり過ごしたい……」


「何、アホな事言ってるのよ」

 私は、呆れてパパを睨んだ。今まで、店の事も、リゾートホテルの事も一切口にしなかったのに、突然何を言い出すのか……


「まあ、半分冗談だが、半分は本気だ。来週末、ホテルの経営方針発表があるらしい。家も呼ばれている。奏海も一緒に行くぞ」

「ええ―っ」

 私は、大きな声を上げた。