「スープが残っているんです。一緒にいかがですか?」

 私の言葉に、驚いたように由梨華が顔を上げた。


「なによ…… 私に勝ったからって、偉そうに…… バカにしないでよ」

 由梨華は、悔しそうに膝の上の拳をギュッと握った。


「こんな店の残り物ですみません……」

 私は、立ち上がると、キッチンに入りスープの入った鍋に火をかけた。すぐに、温かいいい匂いが店の中に広まった。


 海里さんが立ち上がり、カウンターの椅子に座った。


「しょうがない。特別に飲ませてやるよ」

 海里さんは、由梨華さんに座るようカウンターの椅子に手を掛けた。
 海里さんの口調は、さっきのビジネス的な物でなく、いつものそっけない物だった。それが、逆に由梨華の気持を動かしたのかもしれない。


「えっ? 特別……」

 由梨華さんは、何かに動かされるように立ち上がるとカウンターの席にストンと座った。


 私は何も言わず、温まったスープをカップに注ぐと、由梨華さんの前に置いた。湯気が立ったスープを見つめていた由梨華さんはスプーンを手にすると、戸惑いながら口に運んだ。


 一口含むと、由梨華さんは手を止めた。


 やっぱり、お嬢様の口には合わなかったのだと思ったが……