「寒川くんって彼女おらんの?こんなイケメンやのに!」

「いやいやそんなことないよ、唐橋さんこそ美人」

「またまた、イケメンのお世辞はキツイからやめてー」

盛り上がる実咲と寒川を横目にカクテルを煽る。今日は実咲を寒川に取られっぱなしだ。面白くない。

「里崎、なんで寒川連れてきたの」

「あの後たまたま寒川と喋ってさ、今日飲みに行くけど来る?って聞いたら暇だって言うから連れてきた」

「ふーん。そ。」

「なんでそんな不貞腐れてんだよ、飲む相手が俺じゃ不満か?」

「そんなこと言ってないじゃん。なんだか実咲が取られちゃったみたいで面白くないの」

「いつもは俺が実咲に取られてばっかで面白くないっての」

「は?なにそれ」

「いやこっちの話。てかグラス空だし、なんか頼むか?」

んーー、と唸りながらスマホの画面に並ぶお酒を吟味する。甘いのが飲みたくなって、お気に入りのやつをオーダーする。

「お待たせしました、セックスオンザビーチで」

「出たエッロい名前の酒。お前好きだな」

「だって名前とか置いといて普通に美味しいじゃん?面と向かって頼まないといけないバーだと頼みづらいけどさ」

「スマホ注文に甘えんな」

「へへ、まぁいーの。里崎かんぱーい」

「乾杯」

ふたりで一気に飲み干す。甘いお酒はむせそうになるが疲れている時にはちょうどいい。

「ね、里崎」

「何」

「寒川呼んだのって実咲の為?」

「……さぁ、かもな」

「なによー、昼の話バッチリ聞いてたんだ。盗み聞きとかやらしー」

「男と一緒に飲んでる時にセックスオンザビーチ頼むやつの方がよっぽどやらしーわ」

苦笑しながら新しいお酒を頼む里崎。私もなにか頼もうかとスマホの画面を開こうとすると、「お前の分も頼むわ」と遮られる。

「お待たせしました、ライラふたつ」

「なにこれ、初めて見た。何ベース?」

「ウォッカ」

「へーーー、おいしそ」

視線を感じてふと横を見ると実咲がこちらをニヤニヤと見ている。なにあいつ気持ち悪い。里崎もそう思ったらしく「なんだよ実咲、キモいぞ」と目を細めて言う。

「ライラってまた、回りくどいなあんた」

「うっせえ、黙ってろ。ていうか寒川は?」

「さっき電話かかってきたみたいで今外でてる。」

確かに店のドアのガラスに人の影が映っている。バイト先からだろうか。

「寒川が用事で帰ってくれたら実咲とおしゃべりして飲めるのになーーーー」

そんな失礼なことを言いながらライラを1口。ウォッカがきついが爽やかな味がする。おいし、と小さく呟くと里崎が満足気に笑う。こいつのおすすめのカクテルはいつだって美味しい。好みを完全に把握されてしまっているみたいだ。