よかった、ちゃんと話せてる。

正直、髪を乾かしながら不安だった。昨日あんなことがあったし、里崎とまともに話せるのか。
でも案外会ってみると大丈夫なものだ。自然に話せているし、里崎も普段と変わらない。

「里崎見て!瀬上選手勝ち上がってる!!」

「ハイハイよかったな、お気に入り選手がまだ残ってて」

「流石すぎる〜!!」

やはり全国レベルの選手が集うこの大会はレベルが高い。スピードもパワーも段違いだ。

「おっ、今出小手入ったな」

「っしゃー!!…ってあれ?里崎いつから試合ちゃんと見れるようになったの?」

「…お前がうるさく瀬上選手の動画見せてくるからな」

「えー、ちゃんと剣道ファンじゃん!なんか嬉しいなぁー」

いつものように里崎に冗談で抱きつこうとして、ふと昨日のことを思い出し赤面し離れる。

どした?今日はいつもみたいに来ないのか?と里崎が顔を覗き込んでくる。急いで目を手で隠してなんでもないと返答する。やっぱり今日はなんだか気まずい。

「昨日のことだったら気にするな、そんなに大した意図はないし」

その一言で、胸が少しズキリとする。うん、と里崎に微笑み返す。
正体不明の痛みはきえないまま、その後もふたりで試合を見た。帰る頃にはその痛みのことも、ほとんど覚えていなかった。