もしも明日という未来があるのなら

仕方なく病院特有の臭いのする廊下を歩いて休憩室に向かう。

確かここらへんだったはず、と記憶を頼りに扉を開けた。

ボスッ

「すみま、・・・は?」

ちょうど出てきた人とぶつかった。

「え、み、水村!?」

その人物を見て目を見開く。

「え、」

同じクラスの野村 柚月だった。

野村が驚いたまま固まる。

俺も同じように固まって、だんだんスウっと表情が曇る。

休みの日に、学校の女子に会うことが1番面倒臭い。

入学後の実力テストでトップ10入りし、サッカー部に所属していて、背もそこそこ高い。

イケメン優男と言われる兄と顔だけは似ているのねと母に嫌味を言われるので、

多分顔も人並みに悪くないだろう。

入学早々女子に囲まれキャーキャー言われ続けていて、これが想像していた高校生活と違っていたと感じた理由の一つでもある。

通称イケメン優男こと兄のことまでバレたら騒がれることが目に見えている。

「え、あ・・・大丈夫?」

「大丈夫。ごめん。それじゃ。」

「あ、ねえ、ちょっと、!」

スタスタと歩き出した俺に焦ったのか

そのまま放っておけばいいのに

追いかけてきてごめんね、と謝る野村。

「分かったから。」

「あ、う、腕、」

「なんともねえよ。」

「ごめ、、おこって、」

「怒ってねえから、いつもこんな感じだろ。」

「そうだっけ。」

「おま、同じクラスだろ」

俺がどんなやつか嫌でも目に入ってると思ってたから

驚いて足を止めて振り返ると

別の意味で焦っている野村が目に入る。

こいつ、俺と同じクラスなの認識してないな。

一応、入学して1ヶ月立つ。

隣のクラスの女子が休み時間に扉に集まり、

なんだかんだ騒がれていたのはともかく、

毎日一緒に授業を6時間とか受けて

オリエンテーションの合宿もいたんだが

認識されていないとは。

「・・・人に興味ないタイプなんだ、お前。」

「うーーん、まああると言ったら嘘かも。」

「正直かよ。てかどいて。」

いつの間にか俺の前に来て通路を塞いでいた野村がゆるっとどける。

そのまますっと横を通り過ぎる。

野村って媚びたりとかしないんだ、ということに驚きつつ、自分を取り戻そうと深呼吸をする。

意外だった、はっきりしているというか素直というか。

振り返ると野村の姿はもう見当たらなかった。

ふっと息をついて歩き出す。

かわりに上原さんが駆け足で横を通り過ぎて行った。

俺が開けたのは相談室的なところでどうやら休憩室は別の場所に移動になっていたらしく、

しばらく迷ってようやく兄にお弁当を渡せた時には野村と出会ったことなんてすっかり忘れていた。

まだこの時は、これから野村が俺の中でどれだけ大きな存在になるかなんて

頭の片隅にも考えてなんかいなかったし、

ただ偶然会った、それだけにしか捉えてなかった。

今なら、今だから全て見える。

この時からもうすべてが始まっていて

すべてすべて、繋がっていたんだと。