高校2年生、5月。

高校生というのは、毎日が充実して輝いていて

青春は炭酸が弾けるみたいな日々の連続だと

ずっと想像していた。

実際は気がついたら高になっていて、

一年前の自分と一年後の自分は

何ら変化がないのだろうと思っていた。

だから時々、一瞬立ち止まって自分を客観視する。

水村冬馬、高校2年に進級して一ヶ月強か、と。

こうすることで何も成長しないくせして、

年の流れだけ早くなる人生のどの位置に俺は立っているのか確認する。

「あの、大丈夫ですか」

ふいに女の子に声をかけられて意識をこっちに戻す。

病院の目の前、青信号。

「あ、えっと、」

「あ、はい、大丈夫です、すみません」

大きな大学病院の前で腕を吊った人が立ってたから、

何事だろうかと心配してくれたのだろう。

大人っぽい雰囲気だけど中学生くらいにも見える女の子。

少し頭を下げて慣れた足取りで目的地へ向かう。

部活中にこけて骨折した腕は確かに今も痛むけれど、

病院に向かっている目的はそれじゃない。

せっかくの日曜日だというのにこの大学病院で研修医をしている兄に忘れ物の弁当を届けて来いと母さんに言われたのだ。

寝てるとこ起こしてまで、人使いの荒いこと。

青い空の中、それは真っ白に輝いて俺を待ちかまえていた。