「早く…戻って」

私の決心が揺るがぬうちに。

このままじゃ、翔太郎を抱きしめ、離さない自分になってしまう。
そうならないうちに、早く…



お願い、翔太郎…




「う、…ゔぅっ」


急に苦しみ出した。
胸元をぎゅっと抑え、膝から崩れ落ちる。

「ゔぅ…ゔわあああああっ」


その形相は、いつもの穏やかな彼からは想像できない、まるで鬼のようだった。

恐怖…?そんなものは一切ない。


翔太郎が、この人の身体から出て行っているんだ。



胸元の手はだらんと下り、やがて静かに、彼は動かなくなった。







一呼吸し、スマホを取り出して、119と110に電話をかける。



「…すみません、行方不明の永田誠司さんですが…」


不思議にも、私は冷静だった。