走ってきたのか、大きく肩を上下させ、浅い呼吸をしながら眉間にシワを寄せこちらを見ている…
「リョウさん」
リョウさんの目線はすぐさま私から男へと向けられる。
その目はみるみる怒りに変わっていっていること、私でもわかった。
「…その人、俺の大事な人なんで。触らないでもらえますか」
いつもの穏やかなテンポの口調から一転、少し荒れた声に感じた。
私も無理矢理男から引き剥がす。
引き剥がされた体はそのままリョウさんの胸の中へ。
"大事な人"
その場だけの言葉とわかっていても、胸がこんなにドキドキするほど嬉しい。
「チッ。なんだよつまんねーな」
男はタバコを地面に投げつけ、連れと共にその場から姿を消した。
私からスッと離れたリョウさんは、黙って吸い殻を拾い、近くの灰皿にそれを捨てる。
律儀で優しい人だと思った。
「…リョウさん」
「大丈夫だった?怪我は?」
あ、いつものリョウさんだ。
その穏やかな声色に安心した。
「大丈夫です。何もされてないですから」
「…そっか。夜道、歩くときは気をつけてね。ゆなさん、なんだか危なっかしいからさ」
「…っ!」
"ゆなは危なっかしいから、放って置けないんだよな。
でもまたそこが可愛い"
翔太郎がよく言っていた言葉。
もしかして私、リョウさんを翔太郎と重ね合わせてる?
だからこんなにドキドキするの?
いや、そんなはずはない。
人を別の人と重ね合わせて、好きになるなんて、そんなの失礼だ。
違う。私は…
リョウさん"が"、好きなんだ…。