「そうなんですか?なら良かった」

米原くんはそう言うと、ニコッと笑って再び水を飲んだ。

何だか、米原くんと一緒にいるとホッとする。
それは、米原くんと一緒にいることがホッとするのか、直人から逃げられていることにホッとしているのか、自分でもわからなかった。

少し待つと、シゲさんのナポリタンが運ばれてきた。

まだ二回目の来店だというのに、なぜか懐かしさを感じるお店の雰囲気にシゲさんの存在、それからナポリタン。

今日も安定の美味しさだった。

「米原くん、口真っ赤だよ」
「え!そんなヤバイですか?!」

慌てて口を拭く米原くんを見て、笑うわたし。
そんな楽しいお昼休憩もあっという間に終わってしまうのだった。

午後は、午前に引き続きデザインの作成をした。
いつもだったら、直人に相談したりするのだけれど、今日は自分一人で考えた。

15時の小休憩になると、わたしは新しいコーヒーを淹れた。
そのままドリンクスペースで一息つく。

すると、部署のドアがノックされた。

「失礼します」

そう言って、入ってきたのは商品部の岩城さんだった。

「磯山主任、ちょっと宜しいですか?」
「あぁ、もしかして店舗巡回についてかな?さっき篠原さんから連絡があったよ」

岩城さんは、主任のデスクの目の前まで行くと「それなら、話は早いですね」と言った。

「朝永さんを付き添いでお借りしたいんですが、宜しいですか?」

え?
わたし?

主任は少し間を空けると、ふとこっちを向いて「朝永、どうする?」と言った。
みんなの視線がわたしに集まっているのがわかる。

商品部の店舗巡回の付き添い。
内容は何となくわかっていた。

わたしは、無意識に直人の方をチラッと見た。
直人は無表情でこちらを見ていた。

「わたしは、大丈夫ですよ」

気が付けば、わたしはそう返事をしていたのだった。