路地裏に入り、あのお店のドアを開ける。
先客は2名で今日も難なく座れそうだ。

「いらっしゃい」

そこには、カウンターのテーブルを拭くシゲさんが居た。

「おぉ、また彼女連れて来たな」

シゲさんはニヤニヤしながら言った。

「だから、彼女じゃなくて会社の先輩だって!」
「ちょっと、そんなに強く否定するなんて、わたしが彼女に見られるのがそんなに嫌なの?」

わたしが冗談ぽくそう言うと、米原くんは慌てて「そうじゃないですよ!俺の彼女に見られるなんて、菜月さんに失礼だと思って!」と言った。

「そんなことないよ」

何気なくそう言ったが、よく考えるとわたしは恥ずかしいことを言ったような気がした。

前回と同じ席につくと、前回と同じメニューを頼んだ。
シゲさんは「はいよ」と返事をして、厨房へ入って行った。

「あ、朝はごめんね」

わたしがそう言うと、水を飲んでいた米原くんは驚いた顔をして「何がですか?」と言った。

「挨拶してくれた時、素っ気なく返しちゃったから」
「あぁ、全然気にしてないですよ!それより、早坂さんと何かあったんですか?」
「えっ」
「なんかいつもと2人の雰囲気が違ったので」

米原くんはよく見ている。
いや、わたしたちの態度がわかりやすかったのかもしれない。

わたしは苦笑いを浮かべると、「喧嘩したわけじゃないんだけど、ちょっとね」と言って、水を口に含んだ。

「早坂さんに告白されたとか?」

米原くんの言葉につい水を口から吹き出しそうになった。
わたしは水を飲み込むと、「されてないよ」と言って笑って誤魔化した。