ベッドの横におかれた私の鞄の中から、携帯を取り出す。

「会社」

何日無断欠勤してしまったんだろう。クビだろうか?

「あ、会社には、自分は親だと言って、君は高熱でしばらく休むと伝えてあるから」

そう言って、ニコッとした西園寺は再び部屋を出ていった。

その言葉にホッとした。

スマホの電源を入れると、沢山の着信が。

社長からのものと、瑞樹からのものばかりだ。

心配して、かけてくれたんだろう。

私は携帯を握りしめる。

その携帯がバイブで震えた。

着信は、瑞樹。

社長出ないことにホッとしつつ、それに出た。

瑞樹に散々怒られて、迎えに行くと言われたが、社長の元に連れ戻されるかもと思うと、怖くて断った。

逃げていても、ダメなのはわかっているのに。

どうしても帰れなかった。

…とは言え、ここには、私の荷物は何もない。

私は簡単な身支度を整え、社長がいないであろう時間に、家に戻った。

大きなボストンバッグに荷物を詰め込み、玄関まで来たところで、ドアが開いた。

入ってきたのは、もちろん社長。

社長は靴を脱ぐのも忘れて、私の両腕をグッと掴んだ。

「結愛!どこにいたんだ?この荷物は何?結愛」
「社長…ごめんなさい」

西園寺の言葉を思い出す。

社長は私を愛していない。

「結愛?」
「社長…もう一緒にはいられません」

「何を突然…もしかして、優子の事か?」
「私は優子さんにはなれません」

「何を言ってる?優子と結愛を一緒にしたことなんて、一度もない」

「それは、嘘です」

私は、社長を振り払って、家を出ていった。