私はスマホを取り出すと、社長にメールを打つ。

送ってもいいものか?ワガママでしかないのではないか?

そんな事を考えつつ、しばし固まっていた私だったが、メールくらいなら、大丈夫だろうと、自分に言い聞かせ、メールを送信した。

返信なんてないだろう。

私はお弁当箱を片付け、ベンチから立ち上がると、ドアに向かって歩き出す。

そしてドアを開けると、突然スーツに包み込まれたけど

私は驚いて、固まる。

「結愛!」
「…っ!」

その声は、今一番聞きたいと思っていた人の声。

私はその温もりに癒され、目を閉じた。

「ずっと、会えなくてすまない」

低く優しい声が響く。

「社長は、社長なんですから…仕方ないです」

そうは言っても、苦しくなって泣きたくなって声が震える。

「俺は優しくない。気も利かない。結愛の気持ちにもなかなか気づいてやれない」

「…」

「だから、ちゃんと伝えて欲しい」

社長は、私の顔を両手で包み込んだ。

「ワガママ言っていいんだ。胸に閉じ込めないで、俺に伝えて。全ては無理かもしれない。でも、できる限り、応えるから」

「社長」

「ほんの数分しか一緒にいてやれない。でも、こうやって会いに来る」

ポロポロと落ちていく涙を優しく拭って、社長は再び私を抱き締めた。

「社長」
「ん?」

「…どうしてここが?」
「結愛を探しに行く途中、瑞樹に会った。瑞樹が結愛の居場所を教えてくれた」

私は心のなかで瑞樹に礼を言うと、社長をぎゅうっと抱き締めて、その温もりを感じていた。