やっと、足を止めたときには、社長の姿はどこにもなくて。

息を切らす私を、瑞樹は近くのベンチに座らせた。

「…久しぶりにこんなに走ったよ」
「…どう、して」

私の顔を見た瑞樹は、困ったような笑みを浮かべた。

「…本当にたまたま」
「…」

「行きつけのスーツ屋さんがあの辺りにあって、取りに行ってたんだ。店から出たら、結愛が見えて、声をかけようとしたら、向こう側に良樹も見えて…」

「瑞樹さん」

「結愛が泣きそうな顔してたから、思わず走って逃げちゃったよ…良樹に、会いたかった、よな」


そう言うと、ごめんと謝られて、私は首をふる。

「仲睦まじい二人を見たら、足が動かなくなっちゃって…逃げなくちゃって思うのに、無理で」


笑いながら言ってるはずなのに、涙が溢れだして、後から後から流れては落ちていく。

「結愛…」

泣く私を見て、胸が苦しくなった瑞樹は、落ち着かせようと、私を抱き締める。

「泣きたいだけ泣け。何度泣いても、俺が結愛を抱き締めるから」

「瑞樹さ、ごめ、なさ」
「俺のことはいいから」

泣いて、泣いて、泣いて。

…やっと泣き止んだ私は、瑞樹から、少しだけ離れた。

「少しは、スッキリした?」

その言葉に頷いて見せる。

瑞樹はホッとした顔をして微笑んだ。