家についた私は、お弁当箱を洗ったり夕飯の支度をしたり、と、ちょこまかと動き回っていた。

そんなとき、突然携帯が鳴って、誰かも見ずに、それに出た。

「もしもし」
「結愛、やっと電話に出たな」

「…社長」

私はずっと、社長からの連絡には応じないでいたのに。

声が聞けて嬉しいに、慌てて電話を切ろうとする。

「切らないで」
「…」

それに気づいたのか、社長がそう言って、私は電話を切れなかった。

「結愛…結愛に会いたい。会って、話がしたい」
「…ダメです。ダメ。もう、社長には、プライベートでは会いません」

言葉とは裏腹に、ぎゅうっと胸が苦しくなる。

会ってしまえば、気持ちが抑えられなくなる。

でも、それは許されない。

だって、社長には、あんなに綺麗な素敵な彼女がいるのに。

きっとどこかの令嬢だろう。

社長に釣り合う素敵な彼女…

そう考えるだけで、泣きたくなる。

「社長、私にはもう話すことはありません。それでは失礼します」

そう言って、切ろうとした。

「俺、結愛を傷つけるような事、したか?」

受話器越しに聞こえてくる。

「はい…とても傷つきました。素敵な彼女いるのに、もう、私には構わないでください」

それだけ言い捨てて、電話を切った。

…社長からの、着信を拒否して、私は携帯を机において、また、泣いてしまった。

これで全て、終わったと。