その声は忘れようとしても、忘れられなかった人の声。

でも、その声しか届かない。

その姿は見ることは許されない。

何故なら、瑞樹が私の前に立ち塞がったから。

「…瑞樹さん…退いてください」

そう言って、瑞樹の背中に触れると、瑞樹は私の手を下に下げ、握りしめた。

「瑞樹、結愛に会わせてくれないか?」
「嫌だ。良樹に結愛は会わせない」

やはり、声の主は社長だ。

あの日以来、会うことも、声を聞くことすら叶わなくて。

今すぐその声を、この耳で、その姿をこの目で見たいのに。

私は居ても立ってもいられなくて、捕まれた手はそのままに、瑞樹の背後から顔を出す。

「結愛」

社長の優しい声が聞こえた。優しい顔が見られた。

「…どうして、ずっと連絡くれなかったんですか?」
「すまない…しばらく急きょ入った出張に出ていた」

「…嫌われた訳じゃなかった」

ボソッと呟くと、瑞樹と社長は驚きの眼差しで私を見た。

…変なことを言っただろうか?

急に不安になる。

「…結愛、まさかお前」
「…え?」

瑞樹の言葉に首をかしげる。

いつの間にか私達の所まで来ていた社長が、瑞樹から、私を奪った。