逃げようと後退りしてみたけど、出来なかった。

背後にはデスクがあって目の前には瑞樹が居て。

「…泣きそうな顔」

いつの間にか涙目になっていて、視界が歪んでいく。

瑞樹の手が、私の目尻を軽く拭う。

その手は、優しくて…少し驚いて。

付き合い初めてからも、瑞樹は私には触れなかった。

手さえ繋ぐこともなく、私に触れようとしても、直ぐに手は離れていってた。

どうして瑞樹は私に触れなかった?

「触ったら、結愛は凄く温かい」
「…ぇ」

「…小さくて…触れたら柔らかくて…でも、抱き締めたら壊れてしまうんじゃないかと思ったら、触れられなかった。」

…初めて、瑞樹の気持ちを知った。

私は、瑞樹の何を見ていたんだろう?

涙は止まっていて、その目に写るのは、困ったような笑みを浮かべた瑞樹の顔。

「あの頃は、結愛を好きで好きで好きで、好きすぎて。愛しすぎて、愛情が全部裏返しになって、結愛を傷つけて、苦しめて、怖がらせてしまった」

「…瑞樹さん」

付き合い始めたときに呼んできた呼び方。

瑞樹は嬉しそうに微笑んだ。

「…結愛、今度は間違えない。一からやり直してほしい。俺と付き合って、結愛」

「…それは」

…こんなときに思い浮かぶ顔がある。








「…結愛」