桜庭さんとの衝撃的なキスから十日くらいが過ぎた頃、朝食を食べてると母が……


「ねぇ、この頃、桜庭さんは奈央の職場には来ないの?」


急に彼の名前を出し、私は噛み付こうとしていたクロワッサンサンドを落としそうになった。


「…う、うん。最近は社長とのアポも入らないよ」


忙しいんじゃない?と言うと、「そう…」と寂しそうに肩を落とす。


「この間来た時、また遊びに来て下さいね、と言ってたんだけど」


「えっ!?」


「彼もそれには頷いてたんだけどね。お仕事が忙しいなら無理を言っても仕方ないわね」


あーあ、と詰まらなそうに溜息を吐き、来社してきたら「また寄って下さい」と言うのよ、と頼まれた。


「はいはい」


二つ返事をしたものの、私にはそんな気はまるで無い。
出来れば彼が来たら受付からも逃げ出そうと企んでるくらいで、その為に色々と思案してるくらいだったから。



その週もアポは入らずホッとしてた。
彼は有能な建築士なんだから、きっと仕事が立て込んでて忙しいんだろう。


(ずっとそのままでいいんだけど)