「交通事故があって」


広大さんの顔色は冴えない。
事故という言葉を耳にして、私もぎゅっと彼の袖口を摘まんだ。


「どんな？」


ドクンドクンと心臓が鳴り続ける。
こんな日に誰も亡くならないで欲しいと祈りながら、彼の顔を凝視した。


「交差点に進入してきたバイクが、急に跳ね上がって転倒したんだ。乗ってた運転手は勢いで飛ばされて、右折してきたバスの車輪に頭を巻き込まれる格好で、ゴロゴロと道路を転がってった」


「ひ…！」


短く叫ぶと同時に唇を覆う。
水溜まりの深みにタイヤを取られて滑って転倒した兄の事故を思い出し、また…と思うとゾッとした。


「丁度乗ってるタクシーの二、三台前で事故が起こったんだ。それで交差点は急に封鎖されるし、一気に渋滞しちゃってさ」


身動きが取れなくなってしまい、タクシーの運転手もお急ぎなら降りて地下鉄で行った方が早いと勧められたそうなんだけど。


「俺はそれが出来なかった。バイクの運転手が賢也の様に思えてしまって、気づいたらタクシーを降りて事故現場へと向かってた」