(だから、兄さん、お願い!)


もしも、危険な目に彼が巻き込まれてるんなら助けて。助けてくれたら、彼と絶対に幸せになるから。


時計と睨めっこをしたまま彼を待ち続ける。
平野さんは外に様子を見に行ったまま戻ってもこないし、本当にもう何がどうなってるんだか分からない___。



「ああ、もう嫌!」


母の取り乱す声にビクッとする。
悪夢が蘇りそうな気がして、自分も控え室を出て玄関に向かおう、とドレスの裾をたくし上げた。


「奈央!?」

「何処へ行くの!?」


「奈央さん!?」

「ちょっと落ち着いて!」


「離して。私も玄関へ向かう!」


こんな控え室で呑気に構えてなんかいられない。
広大さんが向かってるのだとしたら、直ぐにでも出迎えられる場所で待ちたいんだ。


「大人しく待ってることなんてもう無理!離して!行かせて!」


両親の手を振り解いて控え室のドアレバーを押し下げる。
反動で開いたドアの隙間を抜けようとして、私はドスンと尻餅を着いた。



「奈央ちゃん」