「話?」


「そう。何かと思って待ち合わせの店に行ったら、いつもの様に君の面白話を聞かされだしてね」


「私の?」


「うん、また男に騙されたみたいだとか、奢るだけ奢らされて、結局捨てられたとか」


「ひぇっ!」


…な、なんて話を他人様にしてるんだ。


顔を引きつらせて相手を見ると、桜庭さんはちっとも笑ってなくて、むしろ兄のことを思い出して、少ししんみりした様な表情をしてる。


「賢也は君のことが可愛くて仕方なかったみたいだよ。
近親相姦かと思うくらいに、飲むと君の話ばかりをしていた」


フッと寂しそうに笑い、私はそんな彼の横顔にズキッと胸が痛んだ。


「わ、私は別に兄とは何も…」


ごくごく普通の兄妹でした…と言うまでもなく、桜庭さんは「知ってる」と声を返してくる。


「ただ、それくらいいつも君の心配ばかりをしていた。たった一人の妹だから、変な男には騙されて欲しくないと言って」


そう話すと真面目な表情で見つめ返される。
思わずドキッとして顔を俯け、相手の言葉を反芻した。