「……ごめんなさい」


明日香さんの手を取ると謝った。
もしも兄がこの世に居たら、絶対にそうするだろうと思ったからだ。


「……兄が貴女を残して、この世を去ってごめんなさい。
貴女のことは、凄く凄く愛して、大事にしてたと思うけど、結局は手を離して逝く結果になってしまって、本当に残念で悔しかったと思うの。
まさか、自分でもこんな風に亡くなるなんて思ってなかったと思う。これから先もずっと一緒に生きて、貴女のことを愛していきたかったと思うけど……」


胸の奥から迫るものが込み上げてきて声が止まる。
ちゃんと兄に代わって言葉を贈ってあげないといけないのに、どうにも胸が苦しくてやり切れない。


「奈央さん…」


側に来た桜庭さんは、ぎゅっと手を握ると無理をするな…と優しく言った。
彼を見遣ると薄っすら涙ぐんでて、それを見てたら、やっぱりちゃんと伝えないと駄目だと感じた。

握られてない方の手の甲で涙を食い止め、顔を上げて明日香さんに向いて話しだした。


「でも、もう兄は…戻って来れないんです。どんなに私達が待ち焦がれても、もう二度とこの世に姿を現わすことなんて出来ない。