「賢也は学生時代とは違い、社会に出ると色んなことが見えてきて、それでお互いに言い合いが増えて、結局は明日香と別れてしまったと言ってた。
だけど、同じ区役所に異動してきた彼女と再会したら、やっぱり明日香が一番いい…と再確認したそうなんだよ」


その場で散々ノロケ話を聞かされ、ウンザリだった…と桜庭さんは明かす。だけど、彼の隣にいる彼女はそれを聞きながら涙ぐんでばかりで、「会わなければ良かったの」とか細い声で呟いた。


「私に再会しなかったら、賢也さんは死なずに済んだ。
私の誕生日を一緒にお祝いしたいからと言って聞かなくて、バイクで行くから、と言ったんです。
…あの時、危険だからやめて、ともっと強く言っておけば……そしたら、こんな事にはなってなかった。
貴女達家族の前から、彼がいなくなることも無くて…皆、幸せでいられた筈なんです。
…だから、何もかも全部、私の所為なんです。…ごめんなさい。貴女の大事な…お兄さんを殺してしまって……」


泣き崩れる声を聞きながら、桜庭さんが「落ち着け」と宥める。そんなに泣いたら体に触る…と言う彼の言葉を聞き、ハッと思い出して訊き返した。