彼の声を聞き、一瞬目を見開いた彼女は、後ずさると同時に何故か走り去ろうとした。


「待てよ!明日香!」


桜庭さんはその腕を握り、走るな、と呼び止めて止まらせようとする。


「離してよ!此処に居れる立場じゃないんだから!」


取り乱した相手は手を振り解こうとして必死だ。
だけど、桜庭さんはそれをさせまいとしてるみたいで、双方の動きを見てた私は、何だか自分がその場にいるのが間違いの様な気分がしてきた。


「あの…取り込み中のようだから、私はこれで」


すみません、と身を引くつもりで背中を向ける。
やっぱり兄が勧めた相手でもロクでもない…と考え、どうして自分にはこういう相手しか言い寄って来ないのかな…と落ち込んだ。


「待てよ!何か勘違いしてるだろ!」


背後から声をかける桜庭さんだけど、別に私を追ってくる訳でもなく、彼の手はぎゅっと彼女の腕を掴んだままだ。


「勘違いも何も取り込み中だったでしょ。お邪魔なのは私の方みたいだし」


振り返って憎らしげにそう言う。
桜庭さんは悔しそうに唇を噛みしめ、それを見ると、胸が痛まないでもなかったけど……