チラチラと振り返りながら進む。
ビルの横手には駐車場へ向かう車道があり、そこを何気なく見遣った。


(あっ…)


足が止まり、もう一度見返す。
目の錯覚かと思ったけど、どう見てもやっぱり……


(桜庭さん……よね)


身長と言うか、雰囲気で彼だと感じた。
多分間違いないと思って近寄ると話し声が聞こえ、一人じゃなく、誰かと話してるんだと気づいて立ち止まる。


(女性?)


声のトーンが男性じゃない。
それに何だろ。泣いてる様な気がする。


(何を話してるの?ひょっとして別れ話とか?)


ドキン…と胸が鳴って騒つく。
桜庭さんとその人は、ひょっとして言い争ってるのかもしれない。


確証もないのにそんな気がして、こそっと近付きながら耳をそばだてた。

女性は桜庭さんに「どうしていいか分からない」と訴えてる様だった。
彼は困った様子で「落ち着けよ」と言い、「何でも力になるから」と宥めてる。


(何?どういうこと?)


意味が分からず、二人の様子を見遣ろうとするが、私の位置からは桜庭さんの後ろ姿しか見えず、もう少し近寄って、せめて女性の顔が知りたいと足を前に運んだ。