(こっちはそれだけでここまで胸が騒ついてるけど)


でも、これ以上本気にはならない。だって、悔しい思いもしたくないし、そもそも傷付きたくもないんだ。


何があってもいいと覚悟を決めてから向かう。
桜庭さんのオフィスは地下鉄で二駅しか離れておらず、こんなに近場だったんだ…と呆れた。


(そうよね。考えてみれば、同族企業みたいなもんなんだし)


地下鉄の駅を降りて地上に出ると、既に日の落ちた通りには仕事を終えた通勤者が列を成すように歩いてて、私はそれに逆らう様にして歩き始めた。


(そう言えば、この近くに兄さんの勤めてた区役所もあるんじゃない?)


看板を見つけ、公務員だった兄のことを思い出した。
少し行くと勤めてた区役所の建物が見えてきて、ああやっぱり…と納得。


(此処で働いてたんだ)


立ち止まって感慨深げに見上げる。
土木建築課に配属されてた兄の在りし日を思い出し、どんな仕事ぶりだったんだろうと思いやった。


(兄さんのことを知ってる人とかいないのかな。いたら聞いてみたいな)