桜庭さんに私を推したりするから。

彼が私の前に現れなければ、案外とすんなり平野さんとくっ付いて、「奈央ちゃん」と呼んで可愛がってくれる彼に優しくされながら、居心地よく暮らしてたかもしれないのに……。


恨みがましいことを思いながら、それはやっぱり無いか…と考え直す。
兄が「ノー」と言わなくても、私は多分、平野さんを選ばなかっただろう。



(…だって、お父さんが孤立しちゃうから)


父は前から私に、「結婚するなら酒の相手が出来る男にしろ」と言い続けてきた。

平野さんが例えばどんなにいい人だったとしても、お酒が弱い時点で、私の眼中からは外れる運命にあるんだ。


(それをきちんと彼に話して、分かってもらう方が良かった)


いつかほとぼりが冷めて、また顔を合わせることがあれば、兄の言ってた言葉も含め、平野さんと話してみたい。

私の相手としては選ばれなかったかもしれないけど、兄は貴方のことを信頼して、認めてたんだ…と伝えてあげたい。


(このまま二度と来ないとか……ないよね)