『あいしてる。』


彼女は毎回僕に言った。


僕はその言葉を聞いて微笑んだ。


『あいしてる。』

『あいしてる。』

『あいしてる。』

『あいしてる。』

『あいしてる。』

彼女は毎回ずっと言い続けた。

1度も欠かさずに。



そして、1ヶ月後彼女は死んだ。

彼女は親に捨てられ、若い頃からがむしゃらに働き続けていたらしい。

人を愛する事ができず、からだの繋がりだけの男しか出会ってこず、いつの間にやら30歳になり、末期ガンになった。

彼女は入院してすぐに彼女の担当看護師になった僕に教えてくれた。

その次の日から彼女は僕に『あいしてる。』と言うようになった。

もちろん、僕に好意を抱いてそう言っていたわけではない。

彼女は自分の最期までの時間を偽りでも愛に包まれたかったんだと思う。

『あいしてる。』

その言葉を言ってみたかったんだと思う。

これは僕の勝手な解釈だ。

本当のところはわからない。

だけど、最期に彼女は

『あ…い…し…て…る…。あ…り…が…と…』

そう言って、とてもとても穏やかな顔で天国へ旅立った。

美しく、なんだかせつなくもある顔だった。

ただ、なんだかほほえんでるように見えた。

短い時間でも彼女は幸せだっただろうか。

すると、彼女の荷物の整理をした時に1枚のメモを見つけた。

《私のわがままに何も言わず付き合ってくれてありがとう。最後にあなたの優しい笑顔に会えてよかったです。あいしてる(笑)》

こちらこそありがとう。
あなたの『あいしてる。』はとても温かったです…
そして、僕は泣いた。

『あいしてる。』彼女の言葉が聞こえた気がした。