「そんな事ないよ。莉愛ちゃんのおかげで梓も颯も無事だった」
二度ほど私の頭にポンポンっと触れた悠真は、ゆっくり立ち上がると梓の方へと顔を向けて口を開く。
「そういえば、またスマホ鳴ってたぞ。いい加減行った方が良いんじゃないか」
梓と悠真が何の話をしているのかは分からない。
だけど、そう言われた梓の瞳はどこか暗さを帯びているように見えて…
「莉愛ちゃんなら俺が見てるから」
そんな悠真の言葉に、梓は「あぁ」と小さく答えると、さきほど見せてくれた表情とは違い…眉を歪まし私を視界に入れて申し訳なさそうな、それでいて何かを後ろ髪を引かれるような表情で「悪い」とだけ言うと部屋を出て行ってしまった。
何が『悪い』なのか分からない。
悠真に言った言葉なのか、私に言った言葉なのかも分からない。
でも、あえて言うならば…
梓を庇って怪我をした私に、何処かへ行ってしまう事への悪いなのかもしれない。
別に構わない。
自分で選んでした事なのだから…別に梓が謝る事でもない。
けど、だけれども……
何故かその、梓の背中を見た時……
『行かないで』
と、そう思った私はどうかしている……。



