「莉愛(りあ)」





下駄箱で靴を履きかえ校舎へ上がろうとしたところで、後ろからふいに私の名前が呼ばれる。






学校で私の名前を呼ぶ人物は限られている。




いや、むしろ限られているどころか一人しかいない。





「聖(ひじり)」




「おはよう、今日は早いな」





茶色く色素の薄い髪と瞳、スッと整った鼻筋に驚くほど透き通った綺麗な肌。




まるで物語に出てくる王子そのもののような彼は、学校での人気はもちろん私ですら時々見惚れてしまうほど。




聖は私の従兄弟であり、そして唯一私に優しくしてくれる存在。




「目が覚めたの」




そんな私の言葉に、聖は少し困ったように眉を歪まずとやれやれとでも言いたげに首を横に降った。





「目が覚めたんじゃなくて、あまり寝てないの間違いだろ」




「そんな事ない、少しは寝たよ」





私は眠るのが苦手だ。



浅い眠りについては起き、ついては起きを繰り返してしまう。




小学生の時、自分だけが邪魔な存在だと知ってから夜眠るのが怖くなったから…





寝ている間に捨てられるんじゃないかって…どこかへ連れて行かれるんじゃないかって。



「そんなわけないのに」って聖は心配そうにいつも言ってたけど




それ以来、情け無い事に一人暮らしの今でも眠るのが苦手になってしまった。