梓はこの前、私を手放したくないと言ってくれた。


それには一体どんな想いが込められているのか……私には想像もつかない。



手の届く距離にいるはずなのに、どうしてこんなにも苦しいのだろうか。



曖昧な関係は苦しいのに、距離を置こうと決めた今でも彼との関わりを続けたいと心の何処かでは思ってしまっていて。



こんなモヤモヤした気持ちも、今では全てが心の重みに変わってしまう。



いつのまにか鳴り止んでいたインターフォン、その少し後からガチャガチャと玄関で何やら音がしてドタドタと人の足音らしき音が聞こえてくると、リビングに繋がる扉が勢い良く開かれた。



驚くように肩を揺らし、座っていたソファーから後ろへと振り返ると



そこには息を切らし、軽く制服の乱れた聖がいた。



こんな聖を見るのは初めてだった。
彼はいつも爽やかでスマートで王子様オーラ全開で、だから柔らかそうなブラウンの髪が乱れているのも、額に少し汗が流れているのも、そんな姿はレア中のレアで……




「莉愛っ!よかった、いた。何かあったのかと思って気が気じゃなかったよ…」