「……いきなりどうしたの」


『悪い、俺のせいだ』


「…何、謝らないで。私が熱出したから?そんなの自分のせいだよ」


『……欲しいモノがあったら届ける、何かあるか?』



低い声なのに、それはありったけ優し気で…そして甘くて…とても切ない。



「大丈夫だよ、悠真が色々買ってきてくれたみたいだから」


『そうか』


「…うん」



これ以上何を話したら良いのか分からなくて。むしろ今までどんな風にして梓と話していたのかも思い出せない……重苦しい沈黙が受話器を通して響いてきて。



そうだ…距離を置くつもりなら今言えば良いのかもしれない。そんな発想が頭に生まれてくる。



でも、どうやって言う?どうやって伝えるの?



そもそも、距離を置きたいですだなんて…付き合ってもないのにそんな言い方出来るわけがない。
どう考えても自惚れのおかしな人だ…



「梓…あの…」


『何だ』



受話器越しに聞こえてくる梓の声はいつもよりも少しだけ低く感じて、そして掠れたように私の耳を優しくくすぐっていく。




「あの…」



そう口を開きかけた所で、まるで誰かが見ていたようなタイミングでピンポーンと軽快な音が何もない私の部屋でやけに大きく響いた。