「昨日、梓の家で会ったよね?前にも」



「……えっと…はい」



先ほどの優しげな雰囲気とは違い、いきなり笑顔を消した朱音さん。そんな彼女に何と答えたら良いのかわからなくて…口ごもってしまう。



すると、勢いよく扉が開いた音がして、あまりの驚きにビクッと身体を震わせると



「朱音」



扉の方から低くて静かな声、独特な雰囲気が一気に流れ込んで来る。


そうやって名前を呼ぶんだ…なんて思わず思ってしまう。



「何でここにいるんだ。入るなって言っただろ」



いつもよりも数段低い声。どこか無表情で見下ろして来るそんな梓の姿に朱音さんも一瞬顔を強張らせた。


「……一人だと不安で」



うつむきながら目を伏せ答える彼女は、心細そうにそう答えた。



「行くぞ」



私に一度も向けられる事のない梓の視線に、胸が痛みキリキリとする。自分から離れていったのに…そう思う事は間違っているのに。



背を向け出て行く梓を呼び止める事も、追いかける事も私には出来ない。出来るはずがない……