梓はいつも車に乗ってすぐに、必ず行き先を伊吹さんに告げているんだけど、今日は一向に口を開く気配はない。



どうしたら良いのかとオロオロ気味の私と、バックミラー越しに重なり合った伊吹さんの視線。それは穏やかに細められ優しげに微笑むと、車はゆっくりと走り出した。



車内はBGM一つない静かな空間が広がり、そして心地良くエンジン音だけを響かせる。




元々口数の少ない私と梓がベラベラと話すわけはないけど…今の梓はいつもよりもさらに静かだった。



ギュッと優しく握り締められた右手。




流れる夜景が反射して、窓の外を見つめる梓の横顔があまりに綺麗で思わず見とれてしまった。