家に到着したと同時に「遅い」と冷ややかな声が聞こえた。

「あんた、今まで何してた訳?」

 ありさが階段の上から、優香を見下ろしていた。
 
 結局私立の高校を卒業した後、成績が足りずAO入試で都内の女子大に入学し、大学を卒業した後は就職もせずにふらふらしている。

 本人曰く花嫁修行だとのことだが、遊び歩いているようにしか見えない。口が裂けても言わないが。

 どうやら、また整形したようだ。鼻の形が前と違う。

 優香たちの働いて出した売り上げは、どうやらありさの整形や豊胸、遊びのお金に使われているようだ。
 
「仕事で遅くなったの。お義母さんは?」

「リビングでカンカンよ。おかげでこっちにまでとばっちりきたんだから。いい加減にしてよね」

 部屋に戻っていくありさを見送った後、優香はリビングの扉をあけた。

 リビングは継母の好みに家具が全て買い換えられており、昔の面影は残っていない。

 父が好きだったソファも、父が死んだと同時に買い換えられてしまった。

「一体何時間待たせる気なの?」

 ありさの冷ややかな声は、母親譲りだ。いや、継母の方が冷ややかだ。

「すいません……」

「27歳にもなって、上司からの電話にすぐ反応しないなんて、一体、誰が教育したのかしら」

 こういった小言は、聞き流すのが一番だ。反論したところで、意味は無い。時間が長くなるだけだ。

「夕飯を作ってちょうだい。今日は家でご飯を食べたい気分なの」

「え、でも。今日は」

 週末は家の手伝いをする約束になっている。しかし、今日はまだ火曜日だ。

「ねえ、あなたは誰の会社で働いているの?血も繋がっていないあなたを育ててきたのは誰?あなたのお父さんの会社が経営傾いた時に、私が助けたの。中学校も高校も学費は私が支払ったのよ」

 スイッチを入れてしまったようだ。こうなると時間は長い。

「ご飯作ります」

「もういいわ。私のことを家族だとも何とも思っていない人間のご飯なんか食べたくないもの。早く帰ってちょうだい」

「……わかりました」

 惨めだと思ったことは何度もある。もう大人だ。いつでも出て行ける。

 父の会社を取り戻すまでは、辛抱するしかない。

 唯一残された家族の大切な思い出。