着物の着付けが終わった後、リビングルームにあるテーブルでメイクとヘアメイクをしてもらうことになった。

「見てて、康。ばっちり変えてあげるから」

「頼んだ」

「ところでさ」

「なんだ」

「由紀は相変わらずこの家に入り浸ってんの?」

 乳液を優香の顔に塗りながら、智子は康に尋ねた。

「まあな。あいつは、この家を飯屋だと思ってるんじゃないか?」

 すっかり準備を終えた康は、自分と智子、優香にコーヒーを淹れている最中だった。

「あはは。間違いないかもね。康の料理最高だし」

「リップサービスとして受け取っておく」

「本当だってば。シェフの道を諦めたのが勿体無いくらい……」

「手が止まってるぞ。智子。今日は話をするために呼んだんじゃない」

「つい楽しくなっちゃって。申し訳ありませんでした。優香さん。ちゃんとやりますね」

 康に言われて智子は作業を再開した。

 前も、由紀が似たようなことを言っていた。本当は料理の道に進みたかったと。

 確かに、康の作るご飯は美味しい。丁寧に作られていて、味にもこだわりがあるようだった。

 華のことも含めて、優香が「何があったのか」と聞けるはずもない。疎外感を抱きながらも、優香は黙って座っているしかなかった。