康の作った料理は、ウィンナーに目玉焼き、そしてトマトとアボガド、新玉ねぎのサラダとライ麦パンだった。
 
 コーヒーは、自分で豆を挽いているらしい。

「康の料理、美味しくてしょっちゅう来ちゃうんだよね。昔、ニースに料理人として修行に行ってたこともあるくらいだから」

「そうなんですね。すごい、美味しい」

 今は、料理人として働いていないのだろうか。

 地主の仕事をしていながらも、料理人の仕事をするのは厳しかったのかもしれない。

 康が反応していないので、これはあまり詮索しない方がいい話題なのだろう。

 一仕事を終えた康が、自分の料理を持ってきて席に着く。

 誰かと一緒に食事をするのは、ひどく久しぶりだった。

 会社の人とは、あまり食事をする機会がなかったし、まきやありさは父が死んでから優香と一緒に食事をすることをあからさまに嫌がったので一人で食事をする習慣がついてしまった。

「おかわりいる人は?」

「俺、コーヒーおかわり」

「私は、もうお腹いっぱい。優香さんは?」

「いえ、私もお腹いっぱいです」

 まだ半分ほど残ったコーヒーをゆっくりと味わいながら、優香は「本当においしかったです」と感想を述べた。

「で、優香さんは、これからもここに泊まるの?」

 二杯目のコーヒーを康から受け取った後、由紀は楽しそうな表情を浮かべて尋ねた。

「いえ、さすがに連日お世話になるわけには……」

「えー、いいじゃないの!私は、優香さんがいるの賛成よ」

 華が「ねえ、こうちゃん」と康に同意を求める。

「そうだよ。ここで知り合ったのも何かの縁だし、それに部屋を片付けたとしても、犯人がまだ捕まってないんでしょ?いつまた戻ってくるかも分からないのに、暮らすのなんて危ないよ。ねえ、康」

「なんで、お前らいちいち俺に聞く」

「「家主だから」」

 見事に、由紀と華の言葉が重なった。
 
 康は、「はあ」と深いため息をついた。 

「確かに、部屋は余っているし、犯人が見つかるまでは全くもっていてもらって構わない」

「ですが、いいんですか?」

「家主がいいって言ってるんだったら大丈夫でしょ。けれど、ここに住むんだったら、擬似恋人は続けてもらうことになるけどね」

 由紀の言葉に、華もうんうんと頷いた。

「お前ら、勝手なこと言うな」

「じゃあ、康は伯母さんに何て言い訳するの?地主仲間のパーティーに参加した時に、無理矢理、自分の娘を紹介されて結婚させられそうになった時、どうやって逃げるわけ?」

「私も、変な女の人がこの家に来るんだったら、優香さんの方がいい」

「お前ら……」

「あの。私は、構いません。お世話になるんですし、御礼として協力はさせていただきます」

 昨晩、康の家に行っていなかったら、危ない目に遭っていたのかもしれないのだ。

 警察まで呼んで、安全を確認してから家に戻り、気持ちが落ち着くまで一緒にいてくれた。

 何か、できることがあればしたいと思ったのは、本音だった。