一瞬、康の言っていることが理解できず、優香は呆然と康の横顔を見ていた。
「深い意味はない。しかし、あの部屋じゃ厳しいんじゃないのか?」
散々に荒らされた部屋を思い出す。
下着から、食器から、暴れたかのように全てが散乱した部屋で、一人で一晩過ごすにはあまりにも恐ろし過ぎた。
今からホテルを取ろうにも、優香の住んでいる場所にはビジネスホテルがあまりない。
ホテルを検索して、予約する労力を考えると、康の好意に甘えた方がよさそうだ。
そうこうしている間に、警察が到着し、優香が事情聴取を受け、被害届の書類を出すように言われている間も康はずっと待っていてくれた。
家の鍵が壊されていたので、大家に電話をして新しい鍵を取り付けてもらう話までついた。
貴重品はほとんど盗まれていた。
十六歳の誕生日の時に、父が買ってくれた銀のペンダントも、母と写っている写真も、父との思い出も全て破られ壊されていた。
かろうじてまだ使える日用品をかき集めて、優香は康の車に再び乗り込んだ。
「何か必要なものがあれば、コンビニに寄って買うか?」
家に近づいた時に、康がコンビニエンスストアを指さして優香に提案した。
化粧道具や、歯ブラシは無事だった。
下着も何枚かは無事だったので、優香は首を横に振った。
パジャマも持っている。
「大丈夫です。ありがとうございます。本当にすいません」
「謝る必要はない」
玄関先では、美智子と華が心配そうに優香と康を待っていた。
「本当に大変でしたね。どうぞ、あがってお茶を淹れておいたわ」
「ありがとうございます」
「伯母さんありがとう」
「康ちゃんも大変だったわね」
康は、心配そうに見つめる華を抱き上げて、優香に「どうぞ」と家に入るように招いた。