昨日の夜のお母さんのことがあってからか、
夜は一睡もできなかった。


「みぃちゃんおはよ…ってどうしたのそのくま!」

「おはよう。ちょっと考え事してて」

「みぃちゃんが珍しいね?悩みがあるなら相談乗るよ」

「ありがとう。楓」


楓。ごめんね
このことは楓には言えないかもしれない。

言っても大丈夫だと思う。
だけど、なんの根拠もないのに

"翔くんにはなにかあるかも"

なんて言っても意味がわからないだろう。


「あ、翔くんおはよー!」


友くんが翔くんに元気よく挨拶をしていた。


「おはよう。友也くん。」

「やっだなー、友也くんなんて。友くんって呼んでよ」

「んじゃあ、友くん」

「お、いいね宮くんっ」

「ちょっと友くん、それダサいから」


楓も会話に混ざって楽しそうに話していた。
でも私はそれが何故かできなかった。

別に気にしなくてもいいと思う。

でもお母さんがあんな目つきで真剣に物事を言うなんて
今までになかったことだから、少し動揺しているだけで、
もしかしたらそんなに深く考えなくてもいいかもしれない。

でも私が頼れるのは、友達とお母さんだけ。
女手一つでここで育ててきたお母さんのことを
どうも簡単に裏切るなんてできなかった。


「どうした高槻。元気ないじゃん」


心配した友くんが駆け寄ってくれた。


「ううん。なんでもないよ」

「そっか。何かあったらすぐ言えよな」

「うん。ありがとう友くん。」


友くんや楓に言うことは簡単だ。

だけどそれで翔くんとの友情を壊してしまうのは嫌だった。

詳しいことは今日の夜お母さんに聞いてみよう。
そう思った。


「ただいまお母さん。」

「おかえり美依」


昨日のことをちゃんと聞こう。


「お母さん。昨日のことなんだけど」

「何?」

「翔くんが…どうかしたの?」


緊張した。

指がブルブル震えているのがわかる。
額には冷や汗をかいていた。

別にお母さんのことを信じていない訳では無い。


「翔くんって、転校生よね?どう?仲良くなれた?」

「え、あ、うん、今隣の席だよ」

「そう。良かったわね」


あれ。

やっぱり私の勘違いか。

なーんだ。お母さんのことだもん。
昨日は疲れていたんだよね。


だけども何故か、心は晴れたような曇ったような複雑な心情だった。