木曜日の夜。啓一が帰宅するとソファで紫織がぐったりとのびていた。

「あ、啓ちゃんお帰りぃ~…。
ご飯とお風呂どっち?」

『食事にする。冷蔵庫のものを温めたら良いんだな。
ところで寛いでいる所悪いんだが、なぜそんなにぐったりしているのか教えてくれないか?』

「だって今日は木曜日だよ?労働を始めて4日目。しかもまだ明日があるんだもん。そりゃぐったりもするよ…」

『なるほど。確かにそうだ。
しかし、見たところ紫織の体力の低下は著しいぞ。体調でも悪いのか?』

紫織が寝ているソファを背もたれにして啓一はカーペットに座った。

「んー、別にどこも悪くないよ。ただ疲れてるだけ。土日休めば大丈夫!
心配かけてごめんね。ほーんと体力なくてうんざりしちゃうよ」

やれやれ、と紫織は首を振る。

『もしかしたら、紫織は考えすぎなんじゃないか?』

「考えすぎ?何を?」

『色々な事だ。仕事のことや明日のスケジュールとか。常に何かが頭にある』

「あー確かにそうかも。特に仕事のことはいつも考えてるよ」

『思考はとてもエネルギーを使う行為だ。体を休ませるのと同じで脳も休ませなくてはならない。頭の使いすぎは体に毒だ』

「そっかぁ。でもついつい気付いたら仕事の事が頭の中をぐるぐる回ってるよ。明日が不安な時は特に…」

『まぁ確かに思考は人間が持つ最高の娯楽だ。考えたくなる気持ちは痛いほど分かる。が、たまには思考を停止させないと制度が落ちてしまう』

私別に人間の娯楽とかそんな難しくは思ってないけど…。
紫織がそう思っていると、ふいに啓一の右手が目を覆ってきた。

『そういう訳だから今日はもう寝なさい。寝れば何も考えなくてすむ。体も横に出来るから効率的に全身を休ませる事が出来る』

「はーい。じゃあ今日はもう寝ます…」

『これからは仕事の事をあまり考えすぎないように。限りある体力は有効に使うべきだ』

「はーい先生」

『あと疲労時は周りを使え。夕飯の用意もしんどければ何か買って帰れるから』

「はーい!先生は優しいですねー♪」

『先生言うのやめなさい。あと…』

コホンッと啓一が咳払いをする。

『仕事ばかりじゃなくてたまには俺の事も考えてくれ』

ソファに寝ている紫織からは啓一は後ろ姿なので表情は見えないが、多分拗ねているだろう。

「はぁい。了解致しました啓ちゃん先生」

そう言って啓一の背中に抱きついた。